あらたまの年を迎えられ、皆様方にはお健やかにお過ごしでいらっしゃいますでしょうか。平和が脅かされ多方面で分断が進むこの不安定な昨今の世情におきまして、私ども音楽、そして舞台芸術の世界に身を置く者は、ますます世の中を明るく照らす灯をともさなければなりません。
こちらは私のプライベートなホームページですが、現在私が全力を注入して総監督を務めます日本オペラ協会の活動状況に絞りまして、ご報告とご案内、そしてご挨拶をさせていただきたく存じます。
昨年は、2月にBunkamuraオーチャードホールにおいて日本オペラ協会が総力を結集して臨んだ、2022年度公演【三木稔作曲《源氏物語》~グランドオペラ日本語版全幕】の世界初演、および7月にテアトロ・ジーリオ・ショウワで開催いたしました2023年度公演《夕鶴》の二つのオペラ公演が、ともに盛況の中でご高評を賜ることができました。また、8月に渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホールで開催しました《第72回 日本オペラ・日本歌曲 連続演奏会》も同様に、“よく訓練された明瞭な日本語でのハイレベルな歌い手による公演”と各方面より賛辞を賜り、充実した一年となりました。これも、ご来場くださいましたお客様方、そしてご支援くださいました関係者の皆様方のお陰と、心より感謝を申し上げます。
本年度(2023年度)の締め括りとなりますオペラ公演は、めぐろパーシモンホールにおいて来る2月10日・11日・12日の三日間、【倉本 聰 原作~オペラ《ニングル》】を新作初演いたします。
オペラ《ニングル》は、「北の国から」(1981年~2002年放送)などテレビを中心に数多くの名作ドラマを手掛けた脚本家・倉本聰氏が、1984年に立ち上げた私塾「富良野塾」を中心に発表した舞台作品のなかの代表的な戯曲を原作としております。
この度、倉本氏がこの戯曲「ニングル」のオペラ化を快く了承してくださりましたことから、オペラ《ニングル》が実現する運びとなりました。
原作の戯曲「ニングル」は、未来を思って現実に破れ死に至る青年と、現実の為に未来を忘れ生き残ったもう一人の青年…その2つの現実の間で苦悩する2人の若者の相克のドラマです。「ニングル」で語られる「森の木を大事にしろ、人類が欲望を満たすために切り開いた森を、種からもう一度呼び戻せ。生命を未来につなげろ」というメッセージは、2015年に国連で採択され2020年にスタートした“SDGs”(持続可能な開発目標)とまさに重なります。
倉本氏は、40年ほど前のこの作品で過度な自然環境の破壊が招く今日の悲劇を既に予告しており、取り返しのつかなくなる前にそのことに気付きそして引き返す知恵と勇気を持つことの大事さを教えてくれています。
また倉本氏は、舞台公演「ニングル」のパンフレットに、「“真実”と“勇気”そのことをモチーフに、今日の利害に捉われて明日のこと未来のことにフタをする我々の生き方を問いたいと思った。 恐らく“ニングル”はそのことを云わす為に、僕の指先に座ったのだと思う」と書いておられます。
2020年にスタートした“SDGs”は、その直後からの国際情勢の大きな変化によって目標の達成に翳りが見え始めてきただけに、私ども日本オペラ協会は新たにオペラならではの魅力を具えた《ニングル》の制作・上演の為に目下情熱を注いでおります。
倉本聰氏の信任の厚い吉田雄生氏のオペラ脚本のもと、渡辺俊幸氏の美しくも劇的な音楽により新作が叶ったオペラ《ニングル》の上演が間近となり、当会の誇るキャスト一同とスタッフが一丸となった稽古場は日に日に熱気に包まれてきております。
皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。
2024年 新春 吉日
郡 愛子
日本オペラシリーズ №86 【ニングル】 新作初演
原作:倉本 聰 / 作曲:渡辺俊幸/ オペラ脚本:吉田雄生
指揮:田中裕子 / 演出:岩田達宗
<期日>2024年2月10日、11日、12日
<会場>めぐろパーシモンホール 大ホール